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2020年05月26日

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露天風呂で酒が呑める「酒出し風呂」を体験してみた

露天風呂に浸かりながら日本酒をクイッと一杯。温泉とお酒が好きな人なら、一度は憧れるシチュエーションではないだろうか。かくいう筆者もその一人。そこで今回は、その夢を叶えるべく群馬のとある宿に向かった。

※2020年2月に取材したものです。

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小野洋平(やじろべえ)

YOUHEI ONO

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1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。いくつになっても横断歩道の白線は踏んで渡ります。

 

 

酒屋が営む「地酒の宿 中村屋」へ

 

群馬県四万温泉のとある温泉宿で、「酒出し風呂」なるサービスを実施しているというウワサを耳にした。貸し切りの露天風呂からお酒を注文でき、お湯に浸かりながら呑めるというのだ。何それ楽しそう!と、思いつつ気になることもある。

 

お風呂から注文ということは、素っ裸で酒を受け取るのか? また、泥酔して危険なことにはならないのか?

 

行って確かめてみよう。

 

 

というわけで、四万温泉にやってきた。古くから「四万(よんまん)の病を癒す霊泉」という言い伝えがあり、1954年には国民保養温泉地「第一号」に指定された由緒ある温泉地である。

 

 

こちらは日本最古の湯宿建築であり、今も現役の温泉宿として営業している「積善館 本館」。なお、映画「千と千尋の神隠し」のモチーフの一つになったと噂されているらしい。

 

 

しかし、今回の筆者の目的はこっち。「地酒の宿 中村屋」。

 

こここそ憧れの「温泉に浸かって酒を呑む」を叶えてくれる場所だというが、外観は旅館っぽくない。というか、どう見ても酒屋…。

 

 

中に入ってみても、やはり酒屋。地酒を中心にビール、焼酎、ワインなど豊富な品揃えである。うん、酒屋だなー。

 

 

と思ったら、隣の建物との間の細いスキマに旅館への入口があった。

 

 

チェックインを済ませ、客室がある地下へ降りると…おお! 旅館だ。ものすごく旅館。

 

聞けば、もともとは酒屋を営んでいて、旅館はあとから始めたそうだ。なるほど、それで地酒の宿というわけか。

 

 

今回予約したプランは「客室露天で!名月に熱燗(二人で四合)」プラン。

部屋にはウェルカムドリンクよろしく、ウェルカムSAKEが。「四万川」という地元の酒だ。

 

 

そして、テラスには半露天の湯船。客室は和だが、テラスは一転して洋なムード。ここだけ北欧にある森林の中のコテージみたいである。湯上りにここで風を浴び、クールダウンしながら一杯やるのもよさそう。(※露天風呂がついているのはこの1室のみ)

 

天から酒が舞い降りる! ウワサの露天風呂へ

 

 

それでは、さっそく名物の「酒出し露天風呂」を体験してみよう。

 

露天風呂は貸し切り制。予約不要で、空いていれば24時間いつでも利用できるシステム。グループ単位で気を遣わず過ごせるのがうれしい(原則、1回の利用時間は30分程度まで)。

 

 

低温の「岩文の滝湯」と高温の「明治の湯」の二つの源泉を混合しており、神経痛、皮膚病、擦り傷、アトピー性皮膚炎などに効能があるとのこと。

 

 

戸を開くと、まず内湯。

刺激が少なく柔らかな肌触りの湯は、筆者の敏感肌にも合った。

 

そして、その先に…

 

 

露天風呂があった。ここが例の「酒出し風呂」らしい。

 

中央には(詰めれば)3〜4人は同時に浸かれそうな丸い檜風呂。その奥には外気浴にもってこいのベンチもあった。

 

 

これは湯に酒を浮かべる桶かな? 右の妙なカゴはなんだろう?

 

 

お酒はインターホンで注文するようだ。生ビール、地ビール、ハイボール、さらに日本酒は冷やでも熱燗でもいけるらしい。なお、酒出し風呂でのオーダーは1人2杯まで。おそらく深酒を防止するためだろう。

 

とりあえず、生をいっとこう。

 

 

「あの〜…すみません〜。生ビールを…」

おそるおそる注文。どうやら、ちゃんと通ったようだ。

 

酒はどこから来るんだろう? おれいま、すっぱだかですけども。

 

 

とりあえず、湯に入りつつ待ってみる。

 

 

5分後。上からなにやら物音が。

 

ん?

 

 

スルスルスルスルスルスルスルスル

 

 

!!!!!!!

 

 

そしてビールが到着。

 

これには笑った。まさか天からビールが降臨するとは。

 

いいものを見た。シンプルに問題を解決するグッドアイデア。しかし、実際に酒が降りてくるさまは底抜けに馬鹿馬鹿しくて面白い。

 

これを見られただけで、来たかいがあったというものだ。

 

 

桶にビールをセッティング。やや不安定ながら、ちゃんと湯に浮かぶ。

 

それにしても…、酒が風呂に浮かんでいる。

いや、これを目的に来たわけなんだけど、「なんなんだこれ!」という感情が拭えない。

 

どこか現実感のない状況に戸惑いつつ、ビールをひと口。

 

 

うまい。そして、なんとも不思議な感覚。

温泉で温められた体を、冷たいビールが通り抜けていく。なるほど、これは愉快だ。

 

 

しかし、気持ち良さに身を任せて長風呂をしてはいけない。のぼせか酔いかの判断がつかなくなる前に休憩を挟みたい。しつこいようだが、入浴中の飲酒は体に負担をかける。安全に楽しむためにも自制が必要だ。

 

ここはあくまで風情とか雰囲気を楽しむところと心得え、客室に戻ってから存分に気持ちよく酔っ払えばいい。

幸い、ここは酒屋でもある。酒は売るほどある。

 

 

 

というわけで、外気浴で十分に酔いを覚ましてから2杯目をオーダー。

 

 

再び、天より舞い降りし酒。やはり笑ってしまうな。

 

 

熱燗と、ゴディバチョコミルク(という甘いお酒)。

※チョコミルクのほうは撮影係の榎並さんが飲みました。

 

 

湯に浸かり、自然の音に耳を傾けながら熱燗をちびちびやる。人生上級者の遊びというか、人生を“あがった人”の娯楽という感じがする。こんなの20代で覚えていいんだろうか。

 

 

しかし、すっぱだかで呑むというのもなかなかオツなものである。

 

その後、のぼせないよう湯から上がったり、また入ったりを繰り返すうち、利用時間の目安である30分が近づいてきた。名残惜しいがそろそろ退散しよう。

 

ちなみに、呑みきれないぶんは客室への持ち込み可。

(しつこいですが)くれぐれも無理をせず、余ったら部屋で楽しもう。

 

借金7000万円を完済したご主人に話を聞く

 

風呂から上がり、酒屋で晩酌のつまみを物色していたところ、宿のご主人に会うことができた。せっかくなので、いろいろ聞いてみよう。

 

四代目の中村正さん

 

―― 酒屋と宿って珍しい組み合わせですよね。どんな経緯でこうなったんですか?

 

中村さん(以下同)「元々、明治初期から酒屋を家業としていました。ただ、昭和40年代に四万温泉が湯治で賑わい出し、宿が取れない人が出てきたんです。そこで、困っているお客さんに無償で部屋を貸し出したのが宿の始まりですね。うちは部屋数が多く、そのほとんどが使われていなくて余っていましたからね」

 

―― ただ、急に宿を始めるのも大変じゃなかったですか?

 

「実は私は、東京で地元のホテルの営業をしていたんですよ。ただ、経験があったとはいえ、正直大変でしたね。というのも、結婚を機に家業を継ごうと戻ってきた時には7000万円ほどの借金がありましたから(笑)。でも、今はきっちり返済しましたよ」

 

―― すごい! どうやって返したんですか?

 

「17年前に日本テレビの『スーパーテレビ』で1年間、密着してもらったのが大きかったですね。いわゆる“貧乏脱出大作戦”みたいなストーリーで、再建をサポートしてもらいました。特に、プロデューサーが敏腕でね。その方のアドバイスが効いたと思います」

 

―― へ〜。例えばどんな再建策が?

 

「例えば、アメリカから組み立て式の檜風呂を取り寄せて、それを作る様子を放映したり。他にもいろいろですね。『地酒の宿 中村屋』という名前は自分でつけましたが、表の看板に文字を彫ってくれたのがそのプロデューサーでした」

 

 

―― それまでお風呂は温泉じゃなかったんですか?

 

「当初は温泉を引いておらず、水道水を沸かしていました。でも、せっかく温泉街なわけですし、それじゃあちょっとね。そこで、平成元年に4km先の源泉から温泉をひく工事をしたんです。うちを含め温泉を持たない10軒の旅館で協力しあってね」

 

―― それで、晴れて温泉宿を名乗れるようになったわけですね。

 

「はい。ただ、その温泉は27度と低温だったので、結局は沸かして使わないといけなくてね。その時にプロデューサーが近所の『積善館』さんに頼み込んでくれて、65度の温泉を分けてもらえるようになったんです」

 

―― おぉ〜凄腕プロデューサー! もはや経営コンサルタントですね。

 

「本当そうですね。そして、2つの源泉を混ぜ合わせると、ちょうど入浴に適した温度になったわけです。以来、うちの宿でも温泉を掛け流すようになりました」

 

―― お客さんも増えましたか?

 

「はい。温泉だけでなく、やはりテレビの影響は大きくて、お客様が何十倍にも増えましたから。ちなみに、酒出し露天風呂を始めたのはその後ですね。最近はSNSで評判になることもあり、若い方に足を運んでいただけるようになりました」

 

―― 酒出し風呂、ありそうでなかなかないサービスですよね。安全に楽しむためのポイントはありますか?

 

「やはり、深酒しないこと。そのため、うちでは『お酒の提供は2杯まで』、『入浴時間は30分まで』とさせていただいております。また、のぼせないように温泉の温度をぬるくしたり、休憩できるようにベンチを設けるといった工夫をしています。あとは、熱燗の徳利も陶器だと割れてケガをしてしまう恐れがあるので、木製のものを使っていますね」

 

―― 体調が優れない時は無理をしないというのも大事ですよね。

 

「そうですね。あとは、入浴前後に水分をしっかり摂ることが重要です。知り合いの蔵元に聞いたのですが、お酒と同じ量の水を飲んでおくと二日酔いしないそうですよ」

 

なお、これまで事故はゼロ。倒れたりした人もいないとのこと。

 

 

すべて当たり前のこと&しつこいですが、くれぐれもよろしくお願いします。

 

ボリュームありすぎの夕食がまたスゴかった

 

さて、目的は達したわけだが、楽しい夜はまだまだ続く。

 

まずは夕食。これが、とんでもなく豪華だった。

 

 

自家製モツ煮込み、ニジマスの塩焼き、馬刺しの盛り合わせ、天ぷら盛り合わせ、上州豚紙鍋、などなど。

 

 

さらに、コシヒカリを山の水で炊き上げた「釜炊きごはん」は2〜3膳分。お新香とけんちん汁まで付く。大食いチャレンジかよというくらい、ものすごいボリュームである。

 

 

ちなみに、上は翌朝の朝食。やはり豪華すぎ&ボリュームありすぎ。

ここまでしてくれなくても…と、こちらが恐縮してしまうくらいサービス精神に溢れすぎている。

 

 

味もよし。ニジマスうまし。

 

 

そして、やはりビールを呑んでしまうのです。

 

 

馬刺しは日本酒のつまみに。

タテガミのトロウマな脂は、スッキリした味わいの四万川によく合う。

 

 

客室には「熱燗を作るセット」まで用意されていた。

存分に酒を楽しんでもらおう、という配慮が素晴らしい。

 

 

食後は酔い覚ましにテラスへ。

夜風が心地よく、そのまま…寝落ち…しそう…。

 

***

 

 

仮眠で酔いが覚めたので、夜の露天風呂へ。

 

ちなみに「酒出し風呂は2杯まで」の掟に従い、ここからはソフトドリンクに切り替えた。節度。

 

 

星空の下で飲むウーロン茶もまた格別(酒だったら、たぶんもっと格別)。

 

***

 

酒の宿、よかった。

酒出し風呂が目当てだったけど、それを抜きにしても十分楽しかったな。

自由に旅ができるようになったら再訪したい。そして、腹がはちきれんばかりに飯を、浴びるように酒を呑みたい。

 

最後に、本日3回目のスルスルスルをどうぞ。

 

 

何度見ても色あせない面白さ。

 

 

今回の「やりたいこと」にかかった金額

東京からの交通費(新幹線、バス ※往復) 11090円
宿泊費(1泊2食付き) 13600円
24690円