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2019年11月02日

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温泉を掘って入りたい

温泉を掘りたい。

温泉を掘り当てて一攫千金みたいなことではなく、自然の中に自噴する「野湯」を掘りたい。そして、自分だけのマイ露天風呂を作って入りたい。

長野の山奥に、それができる場所があるというので向かった。

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Editor/Writer

榎並紀行

NORIYUKI ENAMI

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1980年生まれ。ライター、編集者。編集プロダクション「やじろべえ」代表。アメリカで生まれたりしましたが英語は話せません。ぽっちゃりしています。

「野湯」とは人の手で管理されていない、いわば野生の温泉である。山肌や河原などから自噴・湧出するワイルドな湯で、なかには有毒なガスが発生するなど、秘湯マニアが自己責任で行くような危険な場所もある。

 

しかし今回は、そんなハードなやつではなく、もう少し気楽にトライできるカジュアル野湯を楽しみたい。

 

長野最北端の秘境へ

その野湯は、長野県最北端に位置する山間の集落・秋山郷にあるという。秘境と呼ばれるような場所だが、東京から5時間くらいで行ける。新幹線の越後湯沢駅からバスも出ている。公共交通で行ける秘境なのである。

 

 

とはいえ、越後湯沢からは3本のバスを乗り継ぐ必要があり、各バスの便数も1日に数本しかないので、やはりそんなに行きやすい場所ではない。また、津南町(新潟県)の見玉地区から秋山郷を結ぶ乗り合いタクシーは事前予約が必要だったりする。行きたい人は出発地からの交通ルートを調べ、然るべき足を確保してほしい。

 

 

津南町の中心部を抜け秋山郷に近づくにつれ、コメどころらしい農村風景が広がってくる。山間の平地に田畑を拓き、その横に家を建て、台地や丘陵に墓をつくって故人を弔う。そういう暮らしが何十年も、何世代も繰り返されてきたのだろう。ファッションじゃない、リアル丁寧な暮らしだ。

 

 

越後湯沢駅からバスに3時間ほど揺られ、秋山郷の秘湯・切明温泉に到着した。天気もいいし、ちょうど紅葉も見ごろでロケーション的には申し分ない。

スコップで掘る野湯

切明温泉には3つの宿があり、そのひとつが今日泊まる「雄川閣」だ。ここからすぐ近くの河原に、目的の野湯が湧いているらしい。

 

 

宿のスタッフさんに温泉を掘りにきた旨を伝えると、スコップを貸してくれた。早めに到着したため僕ら以外の宿泊客はまだほとんどおらず、今なら貸切状態の野湯が楽しめるという。

とりいそぎチェックインだけ済ませ、さっそく河原へ向かう。

 

 

吊り橋を歩いて渓谷を渡る。冒険が始まりそうな雰囲気だが、目的の河原はわりとすぐそこにある(宿から徒歩2~3分)。疲れないし危険でもない、野湯ビギナーでも安心の難易度だ。

 

※川の増水時などは危険防止のため利用できなくなる場合もあります。

 

 

とはいえ、そこはさすが野湯。観光名所のように親切な場所ではない。河原への入口に小さい立札が一つあるものの、どこを掘れば温泉が出てくるといった目印はないし、もちろん脱衣所や目隠しも設けられていない。まさに野生の湯だ。

 

 

河原へ。もっと地獄みたいに湯気がもうもうしているかと思ったが、見た目は普通の川だ。

しかし、このあたりの砂を掘れば温泉が出てくるという。本当だろうか。

 

 

ところどころに先人が掘ったらしき「湯船」の痕跡がある。触ってみると、

 

 

あったかいのである。温泉だ!

 

 

河原には人工的な石風呂もあった。

 

この石風呂の近辺は湯温が高く、土も柔らかくて掘りやすそう。マイ露天風呂を作るにはもってこいの立地だ。

 

 

目の前は清流でロケーションも最高。

 

 

というわけで、掘ってみる。

 

 

おお!

 

 

おおお!

 

 

あっちい!

 

すごい! わずかスコップ3かきで本当に温泉が出てしまった。

 

 

さらに掘り進めてみよう。すくった土を脇に積み、湯船を作っていく。

 

 

だいぶ風呂っぽくなった。もう入れそうだ。入ろう。

 

ちなみに、河原の温泉に浸かる場合は水着もしくはタオル着用とのこと。完全に野外で対岸の宿からも丸見えなので、くれぐれも局部がこんにちはしないよう注意しよう。

 

 

なお、僕は乳首NGなので肌着も着用。

 

 

それはさておき・・・・

 

は~~~~~~~気持ちいい~~。

 

 

肌へのあたりがなめらかなお湯は、やや高温(源泉は54度)。埼玉育ちの江戸っ子である僕好みの熱い湯だ。砂や虫が入り混じっているのできれいではないが、そのぶん自然をダイレクトに感じることができ「地球に浸かっている」ような豪快な気分を味わえる。

 

 

しかも、体型に合わせてカスタマイズし放題。

 

 

熱ければ川の水でうめて温度調整もできる。

 

 

そして、この風景。リバーサイドにも程がある。

 

 

せせらぎの音に耳を傾け、たゆたう流れをただ眺める。東京での日常とかけ離れた環境。そんな贅沢な時間に身を委ねていると、人生の在り方、本当の幸せみたいなことを考え・・・たりは別にしなかったけど、たまにこういうゆとりを持ちたいものですね。

 

 

存分に温まったら目の前の川に飛び込む。天然の水風呂。こんなに爽快な交互浴が他にあるだろうか。

 

◆ ◆ ◆

 

というわけで憧れの野湯は、やはり素晴らしいものだった。

宿もよかった

この河原の温泉だけでも行く価値は十分あると思うが、泊まった宿がこれまた素晴らしくて感動したので最後に紹介したい。

 

 

約45年前に開業した「雄川閣」は、今年の7月に公営から民営になったそうで、昭和の建物の趣はそのままに料理やサービスがアップデートされている。従業員のみなさんも感じよく親切だった。

 

 

貸切制の露天風呂は、このロケーションだ。視界を遮るものがなく、ど迫力の渓谷がどーんと広がる。その代わり対岸の河原からこちらの姿が丸見えになるが、水着着用可なのでノープロブレム。

 

 

湯上りはテラスのハンモックで外気浴。

 

 

夕食はジビエ。この日は猪、鹿、熊のしゃぶしゃぶがメインだ。近くにジビエの解体場があり、その日の獲物が新鮮なまま食卓へ運ばれるという。(※狩猟状況によりメニューは変動)

 

 

夜のテラスからは美しい星空が見える。

特に、21時頃に露天風呂への誘導灯が消えてからは、それまで闇夜に紛れていた星々までもがくっきりと現れる。かけ放題のいくら丼みたいに、無数の星々で夜空が埋め尽くされるのだ。こんなにも多くの星を眺めたのは初めてで感動した。

 

なお、今年の営業は11月10日まで。翌年のゴールデンウィークあたりからまた再開するとのこと。新緑の時期の秋山郷も素晴らしいそうなので、ぜひまた来ようと思う。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

一連の道のりを動画でもどうぞ(※音が出ます)。

 

 

今回の「やりたいこと」にかかった金額

東京からの交通費(新幹線、バス ※往復) 14520円
宿泊費(1泊2食付き) 15000円
29520円