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2020年08月03日

房総半島で魚を思いっきり食べたい

いまから半年ほど前、僕は会社に所属していた。仕事はそこそこ忙しく、その上、個人でフリーランスの仕事も請け負っていて、まあまあ大変な日々が続いていた。

「まあまあ大変な状態」をどう扱うかは、その人の人生観が表れてくると思う。これに慣れれば、社会人としてひとまわり成長できるだろう。しかし、率直に「めんどくさいな」という気持ちも大いにある。この間で葛藤する人も多いんじゃないかと思う。

でも僕はあっさりと「成長」をあきらめて、会社を辞めてしまった(会社の人たち、ほんとごめんなさい)。

辞めたら変にテンションがあがって「房総半島にうまい魚でも食べにいきたいな」なんて思うようになった。よし、行ってみるか。

※2020年2月に取材したものです。

この記事を書いた人

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Editor/Writer/Illustrator

斎藤充博

MITSUHIRO SAITOU

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1982年生まれ。指圧師、マンガ家、編集などの仕事をしている。著書に『いやしのツボ手帳』(永岡書店)、『ツボストレッチ』(日本文芸社)などあり。つらいことがあるとすぐに寝てしまう。

新宿バスタから館山駅までバスで2時間かからない

 

千葉県の房総半島はうまい魚が食べられることで有名である。しかし、首都圏から鉄道のアクセスがあまりよくない。同じように魚が食べられるところだと、伊豆の方がずっと行きやすいのだ。そのためにいままでなんとなく足が遠のいていた。

 

しかし新宿バスタから定期的に出ている「房総なのはな号」という高速バスを使えばかんたんに行けるようだ。調べると、南房総の館山駅まで2時間もかからないで着いてしまう。へー。

 

 

というわけで館山駅です。磯や潮の香りがする……なんてことは特になく、普通の地方の駅としてのたたずまいを見せている。

 

 

しかし駅のかたわらには「たてやま旬鮨 海の花」という、いかにもうまそうな名前の寿司屋があった。やっぱりここは海の幸あふれる房総半島の南端である。まずはここからはじめてみようか。

 

 

入店したのは14時なのだが、たいへんな混雑ぶりだ。これは期待ができる。冷静になろうとしてなぜかランチビールを注文してしまった。

 

グイッと飲み干して、「クワ〜これだよこれ」なんて脳内で騒いでいる。全然冷静になれてない。

 

 

突き出しが出てきた。なんらかの卵巣のようだ。あまじょっぱい味付けと、それに負けない濃厚なコク。しょっぱなからうまい。ビールがさらに進んでしまう。

 

 

茶碗蒸し。スプーンを入れたら、エビとホタテがゴロゴロと入っていて、困ってしまった。うまい食材には人を困らせる力があるのだなあ……。ニヤニヤしながらそんなことを考える。

 

 

寿司を注文する。みなさん、とてもおきれいですね。

 

こんなもの、当然のように全部が全部うまいに決まっている。中でもびっくりしたのはヒラメ。ネタがちょっと尋常じゃないくらい分厚い。都会で食べる寿司と全然違う。

 

カンパチもシコシコとした食感がある。新鮮な魚とそうじゃない魚で一番違うところって、食感じゃないだろうか。

 

アジもうまい。脂がのっているけど、全然しつこくない。さわやかな脂なのだ。いま書いたけど、「さわやかな脂」って言葉すごいな。

 

寿司はあっという間になくなってしまった。はー。うまかった。お腹パンパンになっている。苦しいけど幸せ。

 

 

民宿で猫と遊んだり、何かを悟ったり

 

 

十分満足したので、もう帰ってもいいくらいだったが、宿をとってある。「海辺の粋な海鮮料理旅乃宿 伝兵」という魚がおいしいと評判の民宿だ。ネットで条件のよさそうなところを血眼に探した結果、ここにしたのだ。

 

 

宿の近くの崖の木々が折れている。聞いてみると昨年の台風の被害だという(2019年9月9日に関東に上陸した台風15号)。あらためてスマホで調べてみるとかなり大変な被害だったようだ。こうして民宿が営業できているのも奇跡的なことかもしれない。

 

 

宿では猫を何匹も飼っている。みんなとても人懐っこい。きっと民宿の人にいっぱいいい物を食べさせてもらっているんだろうな……。

 

 

猫とひとしきりじゃれあった後に、宿の周りを散策する。しばらく歩いたが、宿の周りにはなにもない。

 

……なにもないので、ぼんやりと海を見た。波の満ち引きをしばらく見つめていると、なんだか意識が通常とは違う感じに変化してくる。

 

眠っているような、起きているような、そんな雰囲気。感覚が鋭敏になっているんだけど、ザザーン、という波の音が聞こえるだけ。世界にあるのは波と自分だけのような気がしてくる。気持ちがいいけど、心は動いていない。

 

なんだろう、これ。ひょっとしたら悟りの境地なんじゃないのか……。

 

そんなことを思ったその瞬間、風船が突然割れるみたいに、意識が通常に戻った。こういうことってときどきある。……宿に戻るとするか。

 

 

民宿で「なめろうの海苔巻き」を食べる

 

 

お待ちかねの夕食の時間。「海鮮料理旅乃宿」というだけあって、夕食は魚料理がメインである。この民宿は同じ建物の中に居酒屋もある。料理だけで勝負できる宿なのだ。

 

 

刺身。昼に寿司を食べたけど、新鮮なお刺身なんていくらあっても全然うれしい。「なめろうでできた海苔巻き」(写真中央)みたいな食べ物がある。こんなの初めて見たけれどうまい。

 

 

エボダイの煮付け。ちょっとドキッとするくらい甘辛い味付けにしてあった。魚が豊富だと、きっと煮付けるときにも遠慮せずにガンガンと調味料を足してゆくのだろう。うまい。

 

 

あとから天ぷらもきた。一見普通の天ぷらにしか見えないけど、エビや白身魚などの海産物はやっぱりうまい。

 

テレビでは旅番組が流れていた。旅行先で旅番組を見るのは変な感じだ。家にいるときだったら「テレビに映っている先に行きたいなー」と思うのだが、現在旅に出ているのでそんな感情は全然湧かないのだ。

 

かなりの量の夕食だったが、ちびちびとビールを飲みながらいつの間にか完食していた。

 

 

浜金谷でペスカトーレを食べる

 

翌日は電車に乗って館山駅から浜金谷駅まで行く。ここにはお土産物屋や、温泉施設などがあるという。館山よりも観光地っぽい場所なんだそうだ。

 

向かったのはお土産物屋さんの施設の中にあるレストラン「ザ・フィッシュ」。

 

 

アジフライを注文。身がものすごく分厚い。1枚だけなのだが、かなりのボリュームがある。これだけでご飯1膳くらい食べられてしまいそうだ。

 

 

アジフライにあわせたのは地元のクラフトビール。「昼から観光地でアジフライをつまみにビール」というシチュエーションが最高すぎる。正直なところ、このビールがどんな味だったかあまり思い出せない。多分超うまかったはずだ。

 

 

調子に乗ってサザエの壺焼きも食べた。いい感じの磯くささを満喫する。

 

 

締めに海鮮ペスカトーレを食べる。これが大正解だった。具はエビにアサリにホタテにムール貝。これらの海産物から出るダシがトマトとものすごくマッチしている。

 

昼から食べすぎかな……と思ったけど、ぺろりと食べてしまった。

 

 

浜金谷からは三浦半島の久里浜までフェリーが出ている。これで帰ることにした。

 

本当は温泉にも入りたかったが、食べ過ぎた状態で風呂に入るのは苦しそうなので見合わせた次第である。

 

フェリーの中にも売店があって、ビールを飲みながらからあげを食べている人がいた。潮風に吹かれながら一杯やるのは楽しそう。僕にもっと消化能力があればなあ……。悲しいです。

 

船内のテレビで「ザ・ノンフィクション」をやっていたので、それをぼんやり見ていたらいつの間にか眠っていた。

 

房総半島ありがとう。メチャクチャうまかったし、ぼんやりできた。またいつか会社に所属して、そして辞めるタイミングがあったらまた来たいと思う。