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2026年01月11日
甲子園で日本シリーズを観たい
「生涯に一度でいいから」というレベルの願望がいくつかある。その一つが、プロ野球の日本シリーズを阪神甲子園球場で観ること。
甲子園を本拠地とする阪神タイガースのファンになってから常にリストの最上位にありつつも、果たしそこねてきた夢。2025年、それがついに叶った。
タイガースファンにとっての聖地・甲子園での日本シリーズ生観戦。
二度はないかもしれない特別な時間を味わい尽くしてきた。
日本シリーズのチケット取れなさすぎ問題
近年、タイガースは強くなった。このさき何年も、リーグ優勝と日本シリーズ進出への期待を抱かせてくれるチームになった。

問題はチケットである。これがまあ、本当に取れない。阪神戦のレギュラーシーズンのチケットは発売初日で全試合の全席が完売するほど人気が高く、それゆえ転売屋の餌食にもなりやすい。
ましてや日本シリーズである。2023年にタイガースが日本シリーズに出場した際は、「先行抽選販売」「一般販売」「見切り席販売」(ホームランポールの真裏に位置するなど、観戦しにくい席)のすべてにエントリーするも惨敗。チケットサイトは全くつながらず。大手プレイガイドのサーバーを軒並みダウンさせてしまう、タイガース×日本シリーズの圧倒的な破壊力を改めて思い知らされた。
だから阪神が2年ぶりに駒を進めた昨年の日本シリーズでも、熾烈なチケット争奪戦を覚悟していた。まず先行抽選に落ち、リセール抽選に落ちた。あとは、私のように抽選に敗れたファンたちが最後の望みにかけてなだれ込むであろう一般販売にかけるしかない。
まさか、だった。そのラストチャンスで奇跡は起きた。アクセス過剰で開く気配を見せない申込画面をこじ開けたのは奇しくも334回目(※)のリロードであったとかなかったとか。そしてついに。
そう、ついに。たった1つのシートを獲得したのだった。
※「阪神 ロッテ 334」 で検索

取れたのは日本シリーズ第3戦。第1戦と第2戦はビジターゲーム。つまり対戦相手である福岡ソフトバンクホークスのホーム「みずほPayPayドーム福岡」で行われ、第3戦は甲子園での開幕ゲームということになる。胴上げの可能性があり人気が集中しそうな4戦目以降を避け、3戦目を狙いすましたのが勝因か。
この瞬間から私の生活は日本シリーズを中心に回り始める。最優先事項は体調管理とスケジュール調整。十分な睡眠とバランスの良い食事とスワローズファンの妻がめぐんでくれたヤクルト1000で免疫力を上げる。兵庫県西宮市の天気予報を10分おきにチェックしながら、ひたすら仕事を終わらせる。仕事に気を取られず100パーセントを阪神に捧げられるよう、全ての締切にカタをつけてその日を迎えた。
甲子園なら勝てる、という敬虔な阪神ファンの聖地信仰
2025年10月28日。私は阪神甲子園球場にいた。
敵から送られた塩(ヤクルト)の効能か、風邪を引くこともなく、すべての締切からも解放され、心身ともに仕上がった状態である。
天気もいい。風は少し冷たいが、晴れ渡っている。雨天中止という悲しすぎるシナリオは避けられた。

ちなみに、今シリーズここまでの対戦成績は1勝1敗の五分。第2戦はホークスに大敗を喫したものの、甲子園に帰れば流れは変わる。多くの阪神ファンはそう信じていただろう。
根拠はない。何なら今季のタイガースはビジターゲームのほうが勝率はいい。それでもタイガースファンは甲子園というホームに対して、理屈やデータを超えた絶対的な安心感や確信を持っている。敬虔な阪神ファンは「聖地」への信仰が強い。
今シーズン、私も東京から甲子園へ繰り返し足を運んだ。ビジター球場に遠征もした。自宅に近い東京ドーム、所沢のベルーナドーム、名古屋のバンテリンドーム、広島のMazda Zoom-Zoomスタジアム、北海道のエスコンフィールド。いずれも素晴らしいスタジアムだったが、甲子園で「聖地の一部」になる感動はどの場所のどんな体験にも代え難い。自宅から甲子園へ続く虎道はいつでも、私の鼓動を激しく鳴らした。

私の席はバックネット裏中央のグリーンプレミアムシート。レギュラーシーズンでは1塁側のアルプス席(内野席と外野席の間にある席)を好んで取る。私設応援団を中心にガチ中のガチ勢が陣を張るライトスタンドに比べるとカジュアルなファンも入り混じっていて、応援の熱量はしっかりありつつものどかな雰囲気が感じられるエリアだ。
グリーンプレミアムシートはそんなアルプスよりも、さらにファン濃度が薄いような印象。試合が始まってもヒッティングマーチやチャンスマーチに声を張り上げるファンはまばらで、「応援する」というよりは野球をじっくり「観たい」層の割合が多いように感じた。

グラウンドの様子もいつもと少し違う。まずベンチ前で取材をする記者の数が明らかに多く、注目度の高さをわかりやすく視覚化している。
解説者も豪華だ。鳥谷敬や内川聖一といったタイガース、ホークスのOBだけでなく佐々木主浩、宮本慎也など球界のレジェンドが試合前の選手の動きをチェックしている。この時点ですでに、特別な戦いであることを感じさせる。

試合前練習が終わり、グラウンドでは日本シリーズならではのセレモニーが進む。アオダモ苗木(バットの原材料)の植樹。コーチ・監督・全選手の入場。ミュージシャンによる国家独唱。
派手な演出はなく、粛々と。真剣勝負への熱をじわりじわりと温めていくように、厳かに儀式が消化されていく。
試合開始が近づき、日が落ちる。LED照明がともる。客席が埋まっていく。
さあ、いよいよだ。


勝っても負けても良い試合になってほしい。いや、やっぱり勝ってほしい。
日本一を決する戦いは、やはり熱かった
試合はおもしろかった。オモテもウラも見どころ満載。ピンチとチャンスがかわるがわる訪れる、結末の読めない好ゲームだった。
初回、タイガースはサトテルのタイムリーヒットで先制点を上げ、4回から9回まで得点圏にランナーを送り続けた。T-WAVE。チャンスわっしょい。チャンス襲来。おなじみのチャンスマーチが球場を何度も揺らした。
守りでは先発の才木浩人が6回途中2失点の粘投。リリーフの及川雅貴、岩崎優、石井大智がピンチをしのぎにしのいで、最終回まで逆転の望みをつないだ。

選手は死力を尽くし、スタンドのファンも大いに盛り上げた。私の席の周りには控えめなファンが多かったが、球場全体のボルテージは高かった。ただでさえ熱い阪神ファンが、己の全てを応援エネルギーに注ぎ込むことで生まれる熱気が集まり、層のように折り重なって甲子園に充満していた。
5回表ノーアウト2塁から大山悠輔と小幡竜平の流れるような連携で2つのアウトをもぎとる。8回表、岩崎優が満塁のピンチを無失点で切り抜ける。2つのハイライトで沸き起こった大歓声は、2023年の日本シリーズで大山の心を震わせたという「地鳴りのような歓声」を思わせた。
これが日本シリーズか――
9回表。ホークスの攻撃を3人で切った石井大智が雄叫びをあげる。ファンは拳を突き上げる。
今この場にいられる喜びを全身で感じていた。このまま負けたとしても悔いはない。でも、やっぱり勝ってほしい。

9回裏。1点ビハインドの攻撃。代打・木浪聖也の四球と近本光司のヒットで、タイガースはこの日7度目(!)の得点機。マウンドにはホークスのクローザー杉山一樹。打席にはチャンスに強い森下翔太。
ヒットで同点。ホームランでサヨナラの場面。地鳴りのような歓声を背に大山悠輔がサヨナラ打を放った2年前の甲子園を思い出す。あの一打がシリーズ全体の流れを変え、2023年のタイガースは日本一へと駆け上がった。
杉山が投じた3球目のストレートを森下がフルスイングで引っぱたく。だが、フェアゾーンに放たれたボールがセンターに抜けることはなかった。
タイガースは負けた。
次こそ勝利の六甲おろしを。タイガースの黄金期はこれからだ
1-2の惜敗。
となれば阪神ファンの行動は早い。風のように甲子園を去り、無言で阪神電車の改札へ向かう。梅田行きの臨時特急に黄色い嘆きが充満する。敗戦後の、いつもの光景。日本シリーズとて例外ではなかった。
悔しい。悔しすぎてその日はゲーム後のルーティンである「虎バンチャンネル」のハイライトを観ることもできず眠りについた。
「勝っても負けても」なんて大嘘なのである。いくら品行方正なファンを装っても、心は卑しく勝利を求めてしまう。心の中の星野仙一が「勝ちたいんや」と荒ぶる。ホームならなおさら。甲子園でのタイガースには、常に勝者であってほしい。
日本一奪還という宿題を残し、阪神タイガースの2025年シーズンは幕を閉じた。そして私にも、日本シリーズで勝利の「六甲おろし」を歌うという宿題ができた。
新たな夢の結実を信じて。タイガース黄金期の戦いをこれからも応援したい。
今回の「やりたいこと」にかかった金額
| チケット料金(グリーンプレミアムシート) | 20000円 |
|---|---|
| 甲子園までの往復交通費 | 28000円 |
| 48000円 | |

