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2021年03月17日

宝塚歌劇の魅力に目覚めたい

鳥取県出身、28歳。
大学入学と同時に関西に住み始め、かれこれ10年になる。
吉本新喜劇に甲子園、嵐山に清水寺。関西らしいことは、おおよそ経験した。
しかしながらわたしはまだひとつ、関西人が成すべきことを成していない。

今こそ、宝塚歌劇団の魅力に目覚めたい。

この記事を書いた人

プロフィール写真

Facilitator / Musician / Writer

高田ゆうぞう

YUZO TAKATA

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1992年鳥取県生まれ。英語を教えたり、オーケストラでギターを弾いたりしている。サウナと麻婆豆腐が好きなので、やたらと汗をかく。

※本文中の画像に関しては、許可をいただいたものを掲載しています。また、当記事の内容はあくまで筆者の主観に基づいたものであり、阪急電鉄株式会社が公式に認めるところではない見解も含まれます。ご了承ください。

 

 

伝統ある歌劇

 

宝塚歌劇団のことは、改めて説明する必要もないだろう。と言いつつ説明すると、かれこれ100年以上の歴史をもつ、女性だけで構成される劇団だ。

 

もちろん、以前から興味はあった。阪急電車に乗ると、至るところで広告を目にするのだ。そりゃあ一度は行きたくもなる。

 

阪急の駅にはこんな看板がよく見られる

 

しかし、お分かりいただけると思うが、観劇までの一歩を踏み出すのがなかなか難しかったりするのだ。とりわけ、28歳男性が見に行くのには、普段使わない勇気が必要だったりする。

 

ということで、自分を奮い立たせ、宝塚に足を運ぶ運びとなった。

 

知人に聞こう楽しみ方

 

まずは下調べ。

 

「百里を行く者は九十を半ばとす」とはよく言ったもので、万全の状態で観劇するためにも、事前のリサーチに決して手は抜けない。

 

幸い、知人に宝塚ファンの方がいたので、その魅力や楽しみ方を聞いてみた。

 

お話を伺ったのは、キーボーディストの小林沙桜里さん。関西一円で大活躍している、新進気鋭のミュージシャンだ。わたしも学生のころより何度も演奏でお世話になっている。

 

PROFILE

小林沙桜里(こばやし さおり)

 

1995年生まれ。兵庫県出身。幼少期より、エレクトーンを学び、数々のコンクールで優秀な成績を残す。エレクトーン演奏グレード3級、指導グレード5級取得。エレクトーンでビッグバンドの曲を演奏したことをきっかけに、ジャズに興味を持つ。高校3年生の時に、アローミュージックスクールにて北野タダオ氏に師事。大阪音楽大学短期大学部ジャズ科へ進学し、木畑晴哉氏に師事。同大学を首席で卒業する。学生時代よりライブ活動を始める。卒業後、独学でハモンドオルガンを演奏し始める。2018年12月にオルガントリオ「JC&C」で1stアルバム「Precious」、2020年4月に2ndアルバム「COLORS」をリリース。自身のピアノトリオや、ソロピアノのライブも精力的に行うと共に、アーティストのバックバンドも務めている。

 

こうしてみると随所に宝塚の影響が見られる(気がする)

 

 

 

−−そもそも、どういうきっかけで宝塚を好きになったのですか?

 

 宝塚のファンだった母や母の友人の影響です。

きっかけは、母の友人が勧めてくださった公演のDVDを見たこと。2010年の星組公演、柚希礼音さん・夢咲ねねさんのトップコンビでの『ロミオとジュリエット』でした。「こんな美しい世界があるのか……」と感動して、一気に興味をもちましたね。

 

その後、母と宝塚大劇場で『ベルサイユのばら』を観劇しました。間近で見るその豪華さに圧倒され、すっかりハマってしまったんです。あの時の感動は、今でも忘れられません!

 

 

−−劇場には年に何回くらい足を運ぶのですか?

 

 映画館でのライブビューイングもありますが、なかなかチケットが取れなくて苦労しています。だから、実際に劇場で観られるのは年に数回ですね。

最近は、楽天TVでの配信もスタートしたので、おうちでも楽しんでいます。

 

 

−−コロナ禍の今は特にありがたいですね。ずばり、宝塚の魅力って何でしょうか?

 

 やっぱり、あの豪華絢爛な世界ではないでしょうか! ジェンヌさん【※1】も、お衣装も、舞台も、細やかなところまで繊細です。単に派手なのではなく、芸術的な美しさが素晴らしいと思います。

 

【※1】宝塚歌劇団の団員さんの愛称。

 

 また、ジェンヌさんが成長されていく姿も魅力の一つです。各組には主演コンビとして、トップスターと呼ばれる男役と、トップスターに寄り添うトップ娘役が一人ずついます。実力主義の厳しい世界で技を極めていかれるお姿を見て、応援できることがとても幸せなんです。

 

それから、宝塚のファンの皆様は、どなたもお優しい方ばかりなんです。『宝塚、ちょっと気になるんだけど……』と言えば、全力でお勧めを教えて迎え入れてくださるような(笑)。

 

 

−−たしかに。今の小林さんがまさにそうですしね。

 

 そんな優しい世界なので、まさに、ジェンヌさんとお客さんが一致団結しているような劇場の空気もとても好きです。

 

 

−−初心者はどんな公演から見始めたらいいですか?

 

 宝塚の代表作といえる『ベルサイユのばら』は、フランス革命の壮大なストーリーや、豪華な衣装など、宝塚の世界を存分に楽しめると思います。

他のお勧めとしては、近年のものが多くなりますが……恋愛ストーリー好きの方には『ロミオとジュリエット』、海外ミュージカル好きの方には『エリザベート』や『スカーレット・ピンパーネル』、映画好きの方には『風と共に去りぬ』や『オーシャンズ11』、笑えるコメディなら『ミー・アンド・マイガール』などでしょうか。

 

 

−−さすが、次々と出てきますね(笑)

 

 宝塚歌劇の公演のほとんどは、お芝居とショーの二本立てになっていて、一回の観劇で異なる体験ができるんです。お芝居では、男役と娘役の違いを肌で感じ、タカラジェンヌ一人ひとりの個性を味わいつつ、物語の世界観を堪能できます。その後のショーでは、きらびやかな世界を無条件に楽しめる。どちらも宝塚歌劇ならではの見どころにあふれていて、ジェンヌさん達のお姿に目が離せませんよ!

 

 

−−(すごい熱量だ……)席種もいろいろありますが、おすすめはどこですか。

 

 オススメはもちろんSS席ですが(笑)、2階席でもステージ全体の様子が見えて十分に楽しめます。また、2階席からは宝塚歌劇の大きな特徴である生演奏【※2】のオーケストラの様子が見えるのも、楽しみのひとつです。

 

【※2】新型コロナウイルスの影響により、現在は録音での演奏になっている。

 

 

−−いろんな「組」があるみたいですが、どれがおすすめでしょうか。

 

 宝塚歌劇には花・月・雪・星・宙(そら)の5つの組と専科【※3】があります。全ての公演が組ごとに行われ、お芝居やショーの演目の違いはもちろん、組ごとに異なる魅力が楽しめます。それぞれの良さがありますので、おすすめは「全て」です!

 

【※3】特定の組に所属せず、各組の舞台に特別出演して舞台を引き締めるスペシャリスト集団。優れた芸の手本として、後輩の育成にも尽力する宝塚の宝箱的存在。

 

 

−−ありがとうございます!宝塚の基本と、小林さんの熱い思いが存分に伝わりました。

 

 

軽い下調べのつもりだったが、情報量に圧倒されてしまった。

さすがファン。ものすごい熱量だ。

 

しかし、おかげで俄然、興味が湧いてきた。もっともっと宝塚を知りたい。

 

劇場のある宝塚市へ

 

ということで後日、大劇場のある兵庫県宝塚市へとやってきた。

 

 

駅から劇場に歩くだけで、もうウキウキしてしまう。そのぐらい、街としての雰囲気が出来上がっている。

 

着いた

 

さっそく、宝塚大劇場を見て回る。

 

 

大劇場エントランス。現在の劇場は1993年、劇団創立80周年を前にリニューアルされ、星組公演『宝寿頌』『PARFUM DE PARIS』で新たなスタートを切った。客席数2,550席を誇る夢の空間は、どの席からもステージが見やすいよう配慮がされている。

 

 

宝塚歌劇の殿堂。宝塚歌劇団の卒業生およびスタッフを写真などで紹介するとともに、寄せられた縁の品も数多く展示されている。

 

 

グッズショップの脇には郵便ポストがあり、ここから手紙を出すと「オリジナルのラインダンス」の消印が押されるとのこと。

 

見て回った中で、印象に残った点を以下に記す。

 

・宝塚歌劇のはじまりは、なんと「室内プール」。鉄道の乗客誘致の一環として1911年、宝塚新温泉が開設され、その翌年に室内プールも開設される。しかし、男女共泳を禁止する時代環境や、温水設備がないことなどから、閉鎖に追い込まれる。そこで、この場所を使って少女だけで歌と芝居を観せることを思い立ったのがはじまり。

 

阪急電鉄の創設者・小林一三氏による発案だそうな

 

・初公演は1914年4月1日、その室内プールを改造した劇場で行われた。演目は、桃太郎を題材にしたお伽(おとぎ)歌劇「ドンブラコ」を含む、全3本。(めちゃめちゃ見てみたいぞ、宝塚の「桃太郎」)

 

・宝塚歌劇の出演者を養成するのが「宝塚音楽学校」。宝塚の舞台に立つためにはここを卒業しなければならない。面接に加えて歌唱や舞踏の試験もあり、その合格倍率は「東京大学」にも匹敵するほどだそう。

 

・公演のフィナーレに必ず出てくるのが「 羽根【※4】」と「シャンシャン【※5】」。宝塚歌劇の殿堂では、コロナ禍でなければ「シャンシャン」を実際に手にとってみることもできたそうだ。残念。

 

【※4】「羽根」はタカラヅカには欠かせない衣装飾り。トップスターたちが背負う羽根は、数十キロに及ぶものもある

 

 

【※5】フィナーレで出演者全員が手にする小道具「シャンシャン」

 

・宝塚大劇場内には、実際に宝塚の衣裳を身に纏って撮影ができる「ステージスタジオ」もあり、大変人気なのだそう。

 

 

スケジュールの都合上、この日は観劇はせず、ぐるっと施設の見学だけをした。それでも、この楽しさはなんだろう。全てが華々しく、きらびやか。まるで魔法をかけられたような世界観……。

 

初めて訪れた宝塚大劇場は、言うなれば「ディズニー」のような夢のある世界だった。いや、もとい、ディズニーが宝塚みたいなのかもしれないが、ようはどちらも素晴らしい。

 

 

また別施設ではあるが、大劇場から10分ほど歩いたところにある「宝塚文化創造館」にも立ち寄ってみた。かつての宝塚音楽学校の校舎で、内部の見学も可能。当時の空気感も感じられて「ここで厳しいトレーニングを積まれたのだろうな……」と、想像が掻き立てられる。

 

いよいよ観劇

 

こうした十分すぎるほどの予習を経て、いよいよ観劇に臨む。

後日、再び宝塚大劇場へとやってきた。

 

 

今日は撮影係の妻は同行していないので、ひとりだ。もちろん、男性ファンも見られるが、やはり圧倒的に女性ファンが多いようだ。男性ひとりで訪れたわたしは、なんとなくそわそわした気分になってしまう。

 

 

今回観劇するのは、宙組の「アナスタシア」。ロシア革命で殺害された皇帝一家の末娘アナスタシアが、密かに難を逃れて生きていたという「アナスタシア伝説」にもとづいた作品だ。

 

では早速、観てきます!

 

 

……。

 

 

……。

 

 

!!!!!

 

 

第一部が終了した。

すごい。すごすぎる……。何から書いていいかわからない。

 

気が動転しすぎて、とりあえずビールを飲んだ

 

と、とりあえず、現時点での所感を箇条書きさせてください。

 

・トップスターの方が登場した「だけで」鳥肌が立った。というか、もう出てこられただけで「あ、この方がトップスターなんだな」ということが一瞬でわかった。それほどの立ち振る舞い。意味がわからない。

 

・男役の方々が、冗談抜きで男性にしか見えない。百歩譲ったとして、なぜ「男性の声」で喋り、そのまま「男性の声」で歌えるのか。意味がわからない。

 

知人とのリアルタイムやりとり 「男形」ではなく「男役」ですね、すみません

 

・場面転換の段取りが良すぎる。どういう計画を組んだのちにこうなっているのだろう。電車のダイヤグラムのようなものでも作成しているのだろうか。

 

・劇の要所要所で、「明らかに」表現能力においてスペシャリストだなと感じさせるジェンヌさんが登場した。おそらくその方が「専科」の方なのだろう。恐るべし。

 

 

第一部を終えて、いろんなよくわからない感情が渦巻いている。

 

お芝居、踊り、歌、そして舞台演出。いろいろなことが頭の中で勝手にかけ算を始め、心が何だかおかしな状態になってしまった。人はそれを「感動」と呼ぶのかもしれない。

 

ビールを飲んで落ち着いたら、いざ第二部へ。

 

大劇場エントランスには、素敵なピアノも飾られている

 

 

第二部

 

第二部は、引き続き「アナスタシア」の後編、加えて先述した「ショー」も行われた。

 

……感想を書く前に。

 

終演後の舞台挨拶で、恐るべきことを耳にした。

なんと今回の公演は「密」を避けるため、通常よりも少ないメンバーで上演したというのだ(そしてこの日はなんと「A日程」の千秋楽であった)。

 

ん? ということは……。

これほどまでに豪勢で素晴らしい舞台にもかかわらず、フル・メンバーではないというのか。しかも前述した通り、今はオーケストラも生演奏ではない。

 

もしこれが完全なメンバーだったらどうなっていたのか。

おそらく、まともに生きて帰れなかっただろう。

 

フィナーレでは、柄にもなく目に涙を浮かべながら笑いがこみ上げてしまった。感極まりすぎて。

 

恥ずかしながら、わたしは芸術で涙を流した経験がほぼなかった。

観劇を終えた今なら理由がわかる。それはきっと、芸術に人生を重ねたことがなかったからだろう。

 

28年ぐらい生きて、嬉しいことも悲しいこともそこそこあり、そしてたぶん他の人もそうなのだろうな、と思い巡らす想像力を携えるようになった。そうなって初めて、素晴らしい芸術に触れたとき、その鑑賞の仕方がいっそう深いものになるのだろう。

 

宝塚歌劇団で過ごしてきたそれぞれのジェンヌさん、スタッフのみなさん、それに寄り添うファンのみなさん……いろいろな方のさまざまな人生を想像すると、これほどまでの舞台が今日無事に行われたことに心震え、泣きながら笑ってしまうのだ。

 

 

芸術は、人生を重ねて初めて芸術たる。

宝塚歌劇を観て、それを学ばせてもらった。

 

もし自分の娘が将来「宝塚歌劇団に入りたい」と、その人生を重ねるようなことが起きてもいいように、今から心の準備をしておこう。

 

日が暮れてからの劇場も素敵だ

 

余談だが、観劇後、自分の中にとある「基準」ができた。

 

ジェンヌさんの立ち振る舞いがあまりにも素敵で、あっという間に自分のヒーローになった。

そして何かを行動に起こす(あるいは起こさない)とき、そのヒーローに問いかけるのだ。

 

「はたして、ジェンヌさんなら同じことをするだろうか」

「おれはいいけど、ジェンヌさんがなんて言うかな?」

 

みなさんもぜひ宝塚を観て、感性を揺さぶられてみてはいかがでしょうか。そして心にジェンヌさんを。

 

4月からの花組公演も待ち遠しい

 

宝塚歌劇公式ホームページ

https://kageki.hankyu.co.jp